東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4194号 判決 1978年10月16日
原告
米元忠夫
ほか一名
被告
森重寛
ほか一名
主文
一 被告両名は各自、原告米元忠夫に対し八九九万円とこのうちの八一九万円に対する昭和四九年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告両名は、各自、原告米元寿恵に対し八四九万円とこのうちの七六九万円に対する昭和四九年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告両名のその余の請求はいずれも棄却する。
四 訴訟費用は三分し、その二を被告らの、その余を原告らの負担とする。
五 この判決第一、第二項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告米元忠夫に対し一、二四一万円とこのうちの一、一四一万円に対する昭和四九年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは各自、原告米元寿恵に対し一、一九一万円とこのうちの一、〇九一万円に対する昭和四九年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 第1、第2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
昭和四九年七月五日午後零時八分、杉並区井草一丁目三一番一四号先路上で、被告森重寛の運転する普通乗用自動車(多摩五五や三九〇八号)が訴外栗原ヨシ子運転の普通乗用自動車に衝突し、このため、被告車に乗り合わせていた訴外米元勉が右胸腔内臓器損傷を負つて死亡した。
2 被告らの責任原因
(一) 被告寛は、当時路面が雨で濡れて滑りやすい状況であつたのに、急に時速六〇キロメートルに加速した過失により、被告車を対向車線上に滑走させた。
(二) 被告文生は被告車を自分で購入して所有し、自己のため運行の用に供していた。
(三) 被告寛は事故当時、未成年の学生であつて独立の経済力がなく、被告文生と訴外森重志津子の長男として同居のうえその親権に服していた。被告車の購入費、維持費も父である被告文生や母親が負担する関係にあつた。したがつて、被告文生は被告寛による被告車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上、被告車の運行が社会に害悪をもたらさないように監視、監督すべき立場にあつた。
3 損害関係
(一) 勉の逸失利益と相続
(1) 勉は事故当時一八歳(昭和三〇年八月一一日生)の予備校生であつた。稼働可能期間を二三歳から六七歳までの四四年間、年収額を二八六万一、一六〇円(昭和四九年賃金センサス中の大学卒男子労働者の平均年収二五三万二、〇〇〇円を昭和五〇年賃金上昇率一三パーセントに従つて上昇させた額)とし、生活費として収入の五割を控除、現価換算はライプニツツ式による。以上を算定基礎とすると、逸失利益額は二一八二万円(万未満切捨て)と算定される。
(2) 勉の父と母である原告両名は、それぞれ、右の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。
(二) 慰謝料 各原告五〇〇万円宛
(三) 葬儀費用 五〇万円
原告忠夫は五〇万円を下らない額を支出した。
(四) 損害のてん補
(1) 原告らは勉の死亡に関し、それぞれ自賠責保険金五〇〇万円の支払を受けた。
(2) 右金額は請求額から差引く。
(五) 弁護士費用 各原告宛一〇〇万円
4 まとめ
よつて、被告ら各自に対し、原告忠夫は不法行為に基づく損害賠償金一、二四一万円とこのうちの弁護士費用を除いた一、一四一万円に対する不法行為日ごの昭和四九年七月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告寿恵は同損害賠償金一、一九一万円とこのうちの弁護士費用を除いた一、〇九一万円に対する右同様の遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2の(一)の事実は認める。2の(二)の点は否認、被告車は寛が購入し、運行の支配と利益を有していた。2の(三)のうち、寛が被告文生らの長男で、未成年の学生として同居し、親権に服していたことは認めるが、その余は否認。3の(一)の(1)のうちの勉が一八歳であつたという点、(2)の相続の点、(四)の(1)の損害てん補の点を認め、その余否認
第三証拠〔略〕
理由
一 交通事故の発生
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 被告らの責任原因
1 被告寛の不法行為責任
請求原因2の(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 被告文生の運行供用者責任
成立に争いがない甲第五号証の一、第一六、第一七号証、証人森重志津子の証言、被告井上俊雄、同森重文生本人の供述、右森重志津子の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一、第二号証によれば、被告寛は被告文生と訴外森重志津子との間の長男で、事故当時は日本大学の一年生に在籍し、家族と同居して父親の働きに支えられて大学生活を送つていたこと、事故のとき運転していた自動車は被告寛が大学の友人を介して右井上俊雄から三二万円を支払う約束で譲り受け、一〇万円をまず払つて引取つたばかりであつたこと、右一〇万円は、被告文生の勤務先である日本通信建設株式会社が従業員に売出した株券を右被告が一昔前買受けて妻名義にしていたものを、事故発生の一か月程前に自動車購入資金に充てるため売却し、右代金から支払われたものであること(前掲志津子の証言はこの点についても粉飾がある)が認められる。右事実からすると、被告文生が本件自動車の購入について全く関知していなかつたとは考えられず、同被告の承諾のもとに購入がなされたと認めるべきである。したがつて、被告文生は被告寛による本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ社会通念上、その自動車の運行が社会に害悪をもたらさないように監視、監督すべき立場にあつたものであるから、この見地から、運行供用者としての責任が肯認される。
三 損害関係
1 勉の逸失利益と相続
(一) 勉の逸失利益
成立に争いがない甲第二号証、原告米元忠夫本人の供述によれば、勉は昭和三〇年八月一一日生れで、事故当時、高校を卒業して大学浪人中の身で、原告夫婦に養なわれて予備校に通つていたことが認められる。右事実によれば、逸失利益を算定するに当つては、稼働可能期間を二三歳から六七歳までの四四年間、収入は公刊されている昭和五一年賃金センサス中の大学卒男子労働者の平均賃金(毎月給与額一九万五、五〇〇円、特別給与額八三万〇、三〇〇円)に基づき、生活費として収入の五割を、養育費として月額五万円の割合で五年間分を控除し、ライプニツツ式により現価を換算するのが相当である。
算式(万未満は切捨て)
(195,500×12+830,300)×(1-0.5)×(181,687-43,294)-50,000×12×43,294=19,380,000
(二) 相続
原告両名が勉の父母であることは当事者間に争いがない。したがつて、原告らはそれぞれ、勉の右損害賠償請求権を二分の一ずつ相続したことになる。
2 葬儀費 五〇万円
原告忠夫本人の供述、これによつて真正に成立したと認められる甲第二三号証の一、二によれば、原告は勉の葬儀について五〇万円を下らない費用を負担したと認められ、右金額は本件事故による損害として相当である。
3 慰謝料
甲第一六、第一七号証によれば、勉と被告寛は親しい友達同志で、この事故は被告が勉方に遊びに行つた折に、勉を助手席に乗せて雨の中で少しドライブを楽しみ、そのあと勉を家へ送り届ける途中に発生したものであることが認められる。これらの諸般の事情を考慮すると、原告らが蒙つた精神的損害の額はそれぞれ、三〇〇万円と算定するのが相当である。
4 損害のてん補
原告らが勉の死亡に関し、それぞれ自賠責保険金五〇〇万円ずつを受給したことは当事者間に争いがなく、右金額を本件損害額から差引くべきことは原告らが自認するところである。
5 弁護士費用
原告らが訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち原告それぞれにつき八〇万円を本件交通事故による損害として相当と認める。
四 まとめ
以上によれば、原告米元忠夫の請求は、被告ら各自に対し不法行為に基づく損害賠償金八九九万円とこのうちの弁護士費用を除いた八一九万円に対する不法行為日ごの昭和四九年七月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告米元寿恵の請求は、被告ら各自に対し不法行為に基づく損害賠償金八四九万円とこのうちの弁護士費用を除く七六九万円に対する不法行為日ごの昭和四九年七月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから認容し、原告らのその余の請求は正当ではないから棄却することとする。(民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条)
(裁判官 龍田紘一郎)